れっきとした歴史 (第五回目)
「胃カメラ(内視鏡)」
これは誰も取り上げないマニアックな人物や物に対して、スポットライトを当て、その歴史について、助手いさおが浅く・狭く紹介するコーナーです。
さて、前回の「カラオケ」は、日本で発明されましたが、今回も日本で発明された「胃カメラ」について紹介します。
1949年(昭和24)東大病院の宇治達郎(うじたつお)先生が「患者の胃の中を写すことができるカメラを作って欲しい」という難題をオリンパス(当時・オリンパス光学工業)の研究所の技師「杉浦睦夫(すぎうらむつお)」に持ち込みました。ですが、オリンパスの研究所所長は「無理に決まっている、真っ暗な中でどうやって写真を撮るのだ!」と反対しました。しかし杉浦技師は、
・強い光源の検討
・本体の柔軟管の素材探し
・最適なフィルム探し
・水濡れ対策
を試行錯誤で研究し、翌年1950年に試作機を完成させました。
試作機は、本体の先に撮影レンズと小型ランプがあり、フィルムは白黒で幅6mm、手元の操作で小型ランプをフラッシュさせ撮影し、ワイヤーで引っ張りフィルムを巻き上げるというものでした。しかし、胃の中にあるカメラの向きが解らないため、狙ったところを撮影できないことから、室内を暗くし、皮膚を越えてフラッシュが光った場所がカメラの向きだと判断しました。
そして1960年代に入ってアメリカで開発された新しい素材「グラスファイバー」を用い、各国の技師たちは、曲がっていても、光を端から端まで伝える特性をいかし、直接、胃の中を見ることに成功しました。ですが、これではリアルタイムで見ることはできても、写真を撮ることができません。そこで、「グラスファイバー付き胃カメラ」が1964年(昭和39)に開発され登場しました。つまり、胃の中を見ながら狙った所の写真が撮れるというわけです。
時代は進み、その後、昭和50年代前半には、“フィルム撮影”する時代は終わり、グラスファイバーがカメラの役割を果たし、胃カメラは、完全に「ファイバースコープ」に取って代わりました。グラスファイバーを束にして、レンズを付けた「ファイバースコープ」は、技術がさらに進歩すると、CCDを取り付けたものとして開発されます。
※CCD(チャージカップルドデバイス)とは撮像素子(半導体)の名称です。
これにより、ビデオ映像も撮ることができ、ビデオスコープとして、医療各分野で活躍しています。 このCCD素子の開発発展により、ハイビジョン映像で、胃の中も観ることができるようになりました。
今回は、オリンパスの胃カメラの歴史を少しだけ紐解きましたが、オリンパス以外にも日本のメーカーでは、現在、富士フイルム、ペンタックスが市場に参入しています。この3社で日本のシェアをほぼ占めていますが、世界的にもこの日本の3社がシェアを独占しています。
富士フイルムは、もともと、鼻から内視鏡を挿入する「経鼻内視鏡」には昔から定評があり、今でもその技術はオリンパスの上をいっています。また、撮影が困難な小腸の内視鏡を開発、実用化するなど、少しニッチな分野を攻めているようです。
さて、いつもは最後にランキングをお届けしていますが、今回は、ガンの身体部位別の罹患率(りかんりつ)を発表します(2013年データより)。
※罹患率とは、観察対象者が一定期間で新たにがん患者となった数を割合で示したものです。
・男性 胃:17.6%、肺:15.4%、大腸:15.3%、前立腺:14.5% 、その他:37.2%
・女性 乳房:20.3%、大腸:15.9%、胃:11.1%、肺:9.7% 、その他:43.0%
男女とも胃腸が上位にランクされています。
私事で恐縮ですが、大腸、胃、鼻腔の内視鏡を経験したことがあります。やはりいくら技術が進んでも、異物を入れたりするのは辛いものがあり、できれば健康で、一生、内視鏡のお世話にならないほうがいいと感じました。が、一方、早期発見の重要性も大切だといわれています。
早期発見できるようになったのも、先人の胃カメラ開発のおかげです。
今回は、胃カメラ・内視鏡についてお送りしました。以上、れっきとした歴史でした。
天津 弥
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